- インボイス制度ってよく見るけど、何のことかよく分からない…
- 個人事業主・フリーランスにも関係あるの?
このように疑問に思う方が多いのではないでしょうか。
私も、インボイスってよく見るけど関係ないだろう。そう思っていましたが、今回、インボイス制度について調べてみて、他人ごとではないことを実感しました。
個人事業主・フリーランスの方は、売上高が1,000万円以下である「免税事業者」の方が多いと思います。インボイス制度は、特に「免税事業者」への影響が大きい制度となっているのです。したがって、『個人事業主・フリーランスだから…』と見てみ見ぬふりしていると、後々面倒なことにもなり得ます。
- インボイス制度とは?
- 個人事業主・フリーランスへの影響や対応は?
- インボイスを発行できる「適格請求書発行事業者」への申請方法は?
これらについて説明していきますので、ギリギリになって慌てないように見ていきましょう。
インボイス制度とは?導入する理由は?
そもそもインボイスとは?
インボイスとは、「適格請求書」のことで、名前の通りいわゆる請求書です。
通常の請求書と何が違うかというと、以下の項目が追加となります。
- 適格請求書発行事業者の登録番号
- 商品・サービスごとの適用税率
- 税率事の消費税額等
つまり、「適格請求書発行事業者」として認められている証明が必要な請求書であり、これをインボイスと呼びます。
以下、「インボイス=適格請求書」として説明していきます。
正確に税金を徴収するための制度
端的に表すと、正確に税金を徴収するための制度と言えます。
売手が買手に対して、正確な適用税率や消費税額等を伝えるものです。
具体的には、現行の「区分記載請求書」に「登録番号」、「適用税率」及び「消費税額等」の記載が追加された書類やデータをいいます。
インボイス制度の概要|国税庁
「適用税率」及び「消費税額等」の2つを追加することで、商品・サービスごとに正確な税額を求められるようになります。例えば、商品Aは8%だけど、商品Bは10%で、各税率ごとにかかる消費税は〇〇円のようにです。
なぜこのようなことが必要かというと、買手側には消費税分を控除できる「仕入税額控除」という制度があるからです。
従来の請求書では、税率が一律で計算されていたため、正確な税額とは言えません。インボイス制度の導入により、商品・サービスごとに消費税を求めますので、正確な税額が分かるようになります。税金を徴収する側からすると、正確な税金を知る必要がありますから、当然のことと言えます。
また、別の見方をすると、現在の「免税事業者」から徴収するための制度とも言えます。インボイス制度が導入されると、買手側はインボイスを発行してもらわないと、「仕入税額控除」が適用できなくなるからです。
インボイスは、「適格請求書発行事業者」でなければ発行できず、さらに「適格請求書発行事業者」となるには「課税事業者」でなければいけません。つまり、インボイスを発行するには、「課税事業者」になる必要があるのです。
具体的な対応などは後ほど説明しますが、インボイス制度の概要は以上のようになります。
話の中に出てきた「仕入税額控除」についても知っておくと、インボイス制度が理解しやすくなりますので、見ていきましょう。
理解するためのポイントは「仕入税額控除」
「仕入税額控除」とは、課税対象となる仕入れを行ったときに、仕入れにかかった消費税分を控除できる制度です。
消費税の納付税額は、課税期間中の課税売上げに係る消費税額からその課税期間中の課税仕入れ等に係る消費税額(仕入控除税額)を控除して計算します。
この場合の課税仕入れとは、事業のために他の者から商品などの棚卸資産の仕入れのほか、機械や建物等の事業用資産の購入又は賃借、原材料や事務用品の購入、運送等のサ-ビスの購入などをいい、その課税仕入れに係る相手方が課税事業者であることを要件としていません。
したがって、免税事業者や事業者ではない消費者から仕入れた場合も、仕入税額控除の対象となることから、その支払った対価の額は消費税及び地方消費税込みの金額とされますので、その対価の額の110分の7.8(軽減税率の適用対象となる課税仕入れについては108分の6.24)相当額は、消費税額として仕入税額控除を行うことができます。
例えば、免税事業者である下請業者に外注費100万円を支払ったとします。この100万円の支払の中には、その110分の7.8に相当する70,909円の消費税額が含まれているものとして、仕入税額控除を行うことになります。このことは、事業用の建物や器具などを事業者でない人から購入したり賃借する場合も同じです。
No.6455 免税事業者や消費者から仕入れたとき|国税庁
「仕入税額控除」がなぜ必要かというと、二重課税を防ぐためです。
例えば、「メーカー→卸業者→小売業者→消費者」という流れで、「仕入税額控除」の有無でどのような違いがあるのか考えてみます。いずれも、消費税は10%とします。
1つ目の表:「仕入税額控除」がない場合
2つ目の表:「仕入税額控除」がある場合
流れ | 商品価格 | 消費税 | 納税者 | 納税額 |
---|---|---|---|---|
メーカー→卸業者 | 1,000円 | 100円 | メーカー | 100円 |
卸業者→小売業者 | 1,100円 | 110円 | 卸業者 | 110円 |
小売業者→消費者 | 1,200円 | 120円 | 小売業者 | 120円 |
流れ | 商品価格 | 消費税 | 納税者 | 納税額 | 計算式 |
---|---|---|---|---|---|
メーカー→卸業者 | 1,000円 | 100円 | メーカー | 100円 | – |
卸業者→小売業者 | 1,100円 | 110円 | 卸業者 | 10円 | 110円-100円=10円 |
小売業者→消費者 | 1,200円 | 120円 | 小売業者 | 10円 | 120円-110円=10円 |
このように、「仕入税額控除」がないと、同じ商品に対して何度も消費税が課税されてしまいます。そこで、「仕入税額控除」があれば、業者ごとに付加価値分だけ消費税として納税すればよくなるのです。
納税額が大きく変わりますので、買手側にとって「仕入税額控除」が重要なものであることが分かります。インボイス制度の施行後は、インボイスがなければ「仕入税額控除」を適用できませんので、買手側にとって『売り手側がインボイスを発行できること』は必須とも言えます。
ここまでは、全ての事業者が「課税事業者」であった場合の話です。
もう一つのポイントは、以下の部分です。
その課税仕入れに係る相手方が課税事業者であることを要件としていません。
No.6455 免税事業者や消費者から仕入れたとき|国税庁
つまり、「免税事業者」との取引でも、「仕入税額控除」の適用が行えるということです。これが、個人事業主・フリーランスに影響を及ぼす要因となっています。
例えば、「免税事業者」であるフリーランスの方が、以下の条件で企業と直接取引を行った場合で考えてみます。極端な例になりますが、イメージだけ理解してもらえればと思います。
- 企業が販売する商品価格
5,000,000円 - フリーランスとの契約単価
500,000円
企業視点
- 支払金額
550,000円(単価+消費税) - 仕入控除額
50,000円(フリーランスへの支払いの消費税分) - 売上
5,500,000円(商品価格+消費税) - 納税額
500,000円-50,000円=450,000円(「仕入税額控除」適用により、売上にかかる消費税-仕入控除額)
フリーランス視点
- 受取金額
550,000円(単価+消費税) - 納税額
0円(免税事業者のため)
フリーランスは、消費税5万円を含む報酬を受け取っているため、本来は納税しなければいけません。しかし、免税事業者であるため、納税せずに5万円をそのまま受け取れます。免税事業者であっても仕入時に消費税を払っているため、請求に含める権利がありますが、場合によっては丸々利益となることもあるのです。
インボイス制度が導入されると、必ずどちらかが消費税を負担することになるため、例として示した『消費税をそのまま受け取る』ことは出来なくなります。
まとめると、以下のようになります。
- 買手側は、「仕入税額控除」を適用するには、インボイスを発行してもらう必要がある
- 売手側は、「課税事業者」になり、さらに「適格請求書発行事業者」にならないとインボイスの発行ができない
個人事業主・フリーランスに与える影響
課税売上高が1,000万を超える「課税事業者」の場合
ほとんど影響はなく、インボイスの発行や保存が必要となるくらいです。
「課税事業者」であれば、「適格請求書発行事業者」への申請も行えますし、そうなればインボイスの発行も可能です。今までの取引先においても、インボイスさえあれば、保存義務が増えるくらいなので問題ないでしょう。
課税売上高が1,000万以下の「免税事業者」の場合
最も影響が大きいのは、「免税事業者」でしょう。
「免税事業者」のままであれば、インボイスの発行が出来ず、取引先が負担することになりますので、敬遠される可能性もあります。「課税事業者」になれば、当然に消費税の納税義務が生じます。
どちらにしても、不利益を被ることは避けられません。
インボイス制度への対応方法
課税事業者:登録申請して、インボイスを発行できるようにするだけ
「適格請求書発行事業者」の登録申請を行い、インボイスの発行が出来るようにするだけです。
あとは、請求時に取引先へのインボイスを発行して、写しを保存しておけばOKです。
免税事業者:自分で払うか、取引先が払うかの二択
免税事業者のまま、値下げなどで対応する(取引先が払う)
「免税事業者」のままを選択すれば、インボイスの発行ができず、取引先が消費税を負担することになります。それだけ、取引先から見れば、仕事を依頼するときのコストが高くなってしまいます。
もし、同じだけ仕事のできる「免税事業者」と「課税事業者」がいれば、自ずと「課税事業者」に仕事を依頼することになるでしょう。「課税事業者」なら「適格請求書発行事業者」となり、インボイスが発行できますので当然の結果と言えます。
したがって、「免税事業者」のままで以前と同じように仕事をもらうには、消費税分の値下げが最低限必要になると考えられます。ただし、「免税事業者」と取引をすると、消費税の扱いが異なるという経理上の煩雑さが出てきますので、値下げすれば解決するかは疑問です。
この先も円滑に取引を進めるには、「課税事業者」になることも検討した方が良いでしょう。
課税事業者になり、納税する(自分が払う)
おそらく、多くの「免税事業者」は、「課税事業者」になることを選ぶのではないでしょうか。
- 課税事業者になる
- 適格請求書発行事業者になる
- インボイスを発行する
「課税事業者」になってしまえば、「課税事業者」の項で説明した通り、ご自身が対応するだけで解決します。
その反面、消費税の納税義務が発生することになり、単純に10%の収入ダウンにつながります。とはいえ、仕事が減るかもしれないというリスクに比べれば、マシでしょう。
インボイスを発行するために
「適格請求書発行事業者」への申請に必要なもの
- 課税事業者になる
- マイナンバーカードを取得しておく
まずは、上記2点を済ませておきましょう。「課税事業者」でなければ申請できませんし、e-Tax経由での申請にマイナンバーカードが必要となります。
※窓口や郵送での申請書提出もできますが、今後もe-Taxを利用する機会は増えると考えられますので、この機会にマイナンバーカードを作っておいた方が良いでしょう。
「適格請求書発行事業者」への申請方法
- 窓口
- 郵送
- e-Tax(PC版)
- e-Tax(スマホ版)
いずれかの方法で申請手続きを行います。
詳しくは、国税庁ホームページのインボイス申請手続きを参照してください。
登録申請は令和5年3月31日まで、施行開始は令和5年10月1日から
- 申請手続きは令和5年3月31日まで
- 施行開始は令和5年10月1日から
申請期間と施行開始期間が異なりますので、注意しましょう。申請期間を過ぎてしまうと、特別な事情がない限り、施行開始に間に合わなくなります。
「適格請求書発行事業者」となり、インボイスを発行できるようにすると決めていれば、忘れないうちに手続きを済ませておいた方が良いでしょう。
一応、経過措置により3年間は80%控除、さらに3年間は50%控除という処置もありますので、間に合わなくても多少は猶予があります。とはいえ、管理が煩雑になることから取引先からの印象はあまり良くないと思われます。
まとめ:「免税事業者」への影響大、それ以外は影響小
- インボイス制度とは?
- 個人事業主・フリーランスへの影響や対応は?
- インボイスを発行できる「適格請求書発行事業者」への申請方法は?
これらについて説明してきました。
インボイス制度を端的に表すと、消費税を正確に徴収するための制度と言えます。なぜなら、商品・サービスごとに税率を表すことで、正確な消費税の総額が求められるからです。
インボイス制度が与える影響はというと、立場によって見方が変わってきます。
事業者の種類 | インボイス制度の影響 |
---|---|
課税事業者(買手側) | 売手側にインボイスが発行してもらえなければ、「仕入税額控除」が適用できない。つまり、「免税事業者」との取引は、消費税分の損失になる。 |
課税事業者(売手側) | 「適格請求書発行事業者」への申請を行い、インボイスを発行できるようにしておくだけで良い。 |
免税事業者(売手) | 「課税事業者」にならなければ、インボイスの発行ができない。 ・「課税事業者」になれば、消費税の納税義務が発生する。 ・「免税事業者」のままだと、買手側が消費税を納めることになり、仕事が減る恐れがある |
買手側からすれば、インボイスを発行できる「適格請求書発行事業者」と取引をすれば良く、売手側であっても「課税事業者」なら「適格請求書発行事業者」への申請を行うだけで対応が完了します。
特に影響が大きいのは「免税事業者」であり、いずれかの対応を選ぶ必要があります。
- 課税事業者になり、消費税を納税する
- 免税事業者のままで、値下げなどで対応する
「免税事業者」を選び、値下げで対応したとしても、経理関係の負担を強いることになりますので、「課税事業者」になることが無難な対応と考えられます。消費税分の収入が減ることにはなりますが、仕事が減るよりはマシでしょう。